「エビデンス (evidence)」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。
便利さ故かビジネス界では広く(雑に)使われる言葉ですが、狭義には「因果関係を示唆する科学的根拠」を意味します。
エビデンスは各国の政府、公共機関、企業での意思決定を支える存在となっています。
例えば、オバマ前大統領は選挙活動のマーケティング戦略に、Googleはユーザーのクリック数を最大化する「青色」の選択に、ランダム化比較試験(RCT)と呼ばれるエビデンスレベルの高い分析手法を用いました。
事前知識がないとなんのこっちゃとなりますが、オバマ前大統領やGoogleが成功を収めた要因の一つとして、エビデンスの存在があったということです。
今回読了した『データ分析の力 因果関係に迫る思考法』では、エビデンスを作り出すさまざまな分析手法についてやさしく解説されています。
計量経済学と因果推論に入門できる良書だったので、以下にレビューします。
本書の著者である伊藤公一朗氏はシカゴ大学公共政策大学院の准教授であり、環境政策・エネルギー政策の専門家です。
第一線を走る研究者によって書かれた書籍であり、日経・経済図書文化賞とサントリー学芸賞を受賞してベストセラーとなりました。
伊藤氏は本書を「実践的データ分析に焦点を当てた、計量経済学の超入門書」と位置付けています。
超入門書として相応しく、RCTや自然実験法などの複雑な分析手法を数式なしで理解できるよう解説しています。
図やグラフを多用することで明快さを確保しつつも、可能な限り科学的な厳密性を削ぎ落とさないよう細心の注意が払われているように感じました。
また、研究結果を引用して実例と併せて必ず紹介してくれるため、手法の適用先も想像しやすいです。
実例には分野内で有名な研究に加え、著者が主体的に関わった研究や日本のデータを用いた研究も含まれており、身近なところで因果推論が役立っていることを実感させてくれます。
巻末では、計量経済学に興味を持った人が次に手に取るべき専門書について言及されており、次のステップへ読者を導いてくれます。なんという親切設計。
ただ書評を書くだけではもったいない内容だったので、本書で学んだ4つの分析手法について図に簡単にまとめてみました。参考になると嬉しいです。
ランダム化比較試験 (RCT)

RDデザイン

集積分析

パネル・データ分析

さいごに
本書は因果推論の手法の解説、実例の提示、読者の今後の学習プランの提案など、超入門書として非常に完成度が高い一冊でした。
僕が今まで手に取った因果推論を扱う一般書の中では、随一の完成度であったと感じています。
本書は初学者にも分かりやすく書かれているので、物足りないと感じる方もいるかもしれませんが、そういう方は複雑な手法も含めて取り扱っている『原因と結果の経済学』を読みましょう。
中級者向けの書籍としては、『実証分析のための計量経済学』や『計量経済学の第一歩』、『実証分析入門』が巻末で紹介されています。より専門的に学びたい方は3冊のうちどれか読んでみるとよいでしょう。
プログラミングで手を動かしながら学びたい人は、最近出た『効果検証入門』がかなり良さそうです(必ず買いたい)。
それでは今回はこの辺で。
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